――職場・大学のモラルハラスメント場合

次に、職場や大学における「モラハラ」の実例をご紹介いたしましょう。

職場や大学で「モラハラ」が起こる場合、それは「パワハラ」や「アカハラ」と複合して行われることが多く、「パワハラ」や「アカハラ」は、加害者が、被害者に対して、一見してわからないような言葉や態度で被害者に精神的苦痛を与える「精神的虐待」のかたちをとることが多いようです。

※(アカハラ=アカデミック・ハラスメント=大学内における教授から、教授という地位を利用した学生に対する研究や学習に関する妨害行為や嫌がらせ。セクハラも混じる場合もある。)

被害者も最初は「あれ?……なんかイヤな感じがする……」とか、「嫌われているのかなあ?」とか、「自分が何か気に障る事をしてしまったのではないだろうか?」など、鬱々と思い悩み、自責の念に駆られる場合がほとんどのようです。実際に私自身もそうでした。

 

〈実例②〉――職場の場合

職場女性

A美は、外国語大学を優秀な成績で卒業し、TOEICで満点を取るほどの語学力の持ち主だった。

就職活動も非常に熱心にやり、自身の語学力を生かした仕事がしたいと工場機器メーカーの海外営業職として、就職する。

A美自身は、人当たりもよく人付き合いも上手く社交性に優れた性格の持ち主だが、それは彼女自身の素の性格ではなく、“周囲に気を遣いすぎる”・“空気を読み過ぎる”といういわゆる努力によって身に付けたものであった。

工場機器メーカーとして、海外と取引も多く、出張も多い職場でありながら、中堅の男性社員は、英語すらまともに使えない人材が多く、A美の語学力に目をつけて採用したにも関わらず、彼女の能力が彼らの〈自己愛〉を刺激してしまい、A美は入社後まもなく「パワハラ」及び「モラハラ」を受けることになる。

「お前なんか海外営業時のただのコパニオンだ」とか、「お前の替えなんぞいくらでもいる」

「女の子は使い捨てで、消耗品だ」などと人間扱いすらされない上に、「セクハラ」じみた言動を多数被ることになる。

A美は自身の仕事の能力が足りないないのか、何か相手の気に障るようなことをしたのかなど必死に悩み考え、自身を責める。

しかし、彼女に責任はない。これらは全て〈自己愛的変質者〉による、攻撃と支配なのだ。
早い段階でそれに気づいたA美は、数年我慢してキャリアを積んだ挙句、転職し見事に成功を収めている。










〈実例③〉――大学の場合

B子は、大学院の博士課程に在籍する院生だ。指導教授との関係は良好で学部生の頃から研究者としての将来を嘱望され、期待されていた。

彼女も研究が生きがいで楽しくて仕方がなく指導教授を父親のように慕っていたのだが、その関係を疎ましく思う女性の先輩C子が、B子が修士課程に入学した当初からいた。

B子はどちらかというと人見知りで、あまり社交的な方ではないが、人当たりは良く、誠実で真面目な人物だ。

ただ自己評価が低く、“周囲に気を遣いすぎる”・“相手の顔色をうかがいすぎる”・“何かあるとすぐ自分のせいかもしれない”と思ってしまう性格だ。

そして、あまり世間ずれしておらず、一見すると苦労知らずの良いところお嬢さんにしか見えない(本当に一見……彼女は〈実例①〉の長女なので、あくまでもそう見えるように振る舞っていて、心の傷にフタをしているだけ)。

大学生そのようなB子の性格や教授の可愛がり方や研究熱心さや能力ともに、〈自己愛的変質者〉であるC子の〈自己愛〉を刺激してしまったのである。

先輩C子はB子よりも一回り以上年上で、20代そこそこのB子からすると、水商売の経験がありお酒の席での立ち居振る舞いや、男性のあしらいが上手く社会経験豊富な完璧に大人の女性としか見えない。

まさかそんな人物が自分に劣等感を抱き、尚且つ子どもじみた嫌がらせや攻撃的な言動を、彼女自身の〈自己愛〉を満たすためだけに取る訳がないという、B子の常識的判断と、

自身の性格の一つである“自己評価の低さ”故に、先輩がB子にとる言動は、「モラハラ」ではなく、先輩としての助言であり自身の至らなさ故であろうと理解し、C子と話していてもまるで自分自身の体の一部分を削り取られるようなものすごく嫌な感覚しかしないし、どんなにB子が後輩として礼儀や誠意を尽くしても、「関係が上手くいっている」と自身には感じられず、悶々と先輩・後輩の関係を続ける。

しかし、徐々に他の先輩やアルバイト先との上司との関係を通して、C子が普通でないことにやっと気づく。

彼女のB子に対する言動は、どれも本当に酷く、巧にその酷さを隠蔽する術を持っていた。

C子のB子と初対面の時の第一声は、「いじめたろうか~♪」だったのだ。

……冗談ではなく本気だったのだ。

それ以外にも、修士課程に入ったばかりの頃から「博士課程に進学してくるな」と進路相談を装い度々釘を刺したり、研究面でも「私に理解できない資料使わないでくれない?」など意味の分からないことを言われたり、

指導教授の私に対する言動をいちいち聞きたがり、話すと「そんなの褒めてるわけでも能力買われている訳でもなく、ただの気まぐれで言われただけよー」と有り難いアドバイスをする始末。

挙句の果てには、B子の仲良くなった先輩や同級生を全て横取り(男子は男女関係になり、女子はお酒の席で秘密を聞きだし弱みを握っていいなりにする)しようとし、B子を大学内で孤立させようとまでした。

……そして彼女が最後に横取りしたのが指導教授(既婚)だったのだ。これで、C子のB子に対する「モラハラ」は一応の完結を見た。

B子は、大学を変わる決心をし、自身の辛い経験を研究とこれからの人生の糧にしようと、前を向いて一歩を踏み出そうとしている。